大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和41年(家)3381号 審判 1966年9月26日

申立人 青田ヨシエ(仮名)

被相続人 亡 ロシヤ・ヴエルヌ・ゴヤ(仮名)

主文

被相続人亡ロシヤ・ヴエルス・ゴヤの相続財産の管理人として、

理由

一、本件申立の要旨は、

(1)  申立人は、昭和二八年四月三日被相続人亡ロシヤ・ヴエルス・ゴヤと共同で、別紙目録記載一の1・2の宅地(当時東京都港区麻布○○町○○番の七宅地五一坪八合六勺の一筆となつていたが、その後一部を分筆し、分筆部分を他の土地と交換したので、現在は別紙目録記載一の1・2の二筆となつている)を国土計画興業株式会社より買い受け、これを右被相続人と共有することになつたが、ある事情から、登記簿上は、右被相続人のみの単独所有名義にした。

(2)  昭和三〇年一月頃、申立人および右被相続人は、共同で右宅地上に別紙目録記載二の二階建店舗兼診療所を建築しこれを共有することになつたが、右建物も同様に、登記簿上右被相続人のみの単独所有名義にした。

(3)  申立人は、右建物の新築以降、右建物に居住し、診療所を開設してこれを経営しているのであるが、昭和三二年八月一二日頃右被相続人との間に、申立人が前記宅地および建物に対する右被相続人の持分並びに同建物内に存する右被相続人の動産を金一千万円で買い取る旨の売買契約が成立し、同時に前記宅地および建物に対する右被相続人の持分は申立人に移転し、申立人は前記宅地および建物を単独で所有することになつた。そして申立人は前記契約に基づき、昭和四〇年五月四日に至る迄の間に売買代金一千万円を右被相続人に分割して支払を了した。

(4)  ところが、右被相続人は、申立人に対し前記宅地および建物の所有権移転登記義務を果たさないまま、昭和四一年二月一六日東京都渋谷区○○○四丁目二番一七号において死亡した。

(5)  右被相続人は、イラン国人で、昭和一七年頃来日し、貿易業を営んでいたのであるが、妻子はなく、他の相続人があるかどうか分明でない。よつて、申立人は、利害関係人として右被相続人の相続財産の管理人の選任を求めるため、本申立に及んだ。

というにある。

二、審案するに、申立人提出にかかる各疎明書類、家庭裁判所調査官領岸起志夫の調査報告書および申立人に対する審問の結果によれば、一の(1)ないし(5)記載の事実をすべて認めることができる。なお、被相続人の相続財産は、必ずしも明確でないが、これまでの当裁判所の調査によつて判明している限りでは、別紙目録記載のとおりである。

三、ところで、本件の如く日本に在る外国人が日本において死亡し、その相続財産が日本に在り、その者に相続人のあることが明らかでない場合の相続財産をめぐる法律関係についての準拠法を如何に解するかついては、学説判例上争いのあるところであるが、当裁判所は、被相続人に相続人のあることが不分明であるかどうかおよび最終的に相続人が不存在であることが確定できるかどうかの問題については、法例第二五条により、被相続人の本国法を準拠法と解すべきであるが、相続人のあることが不分明である場合に、相続財産を如何に管理し、相続債権者等のため清算を如何に行なうかおよび相続人の不存在が確定した場合に、相続財産が何人に帰属するかの問題については法例第一〇条の規定の精神に従つて、管理財産の所在地法を準拠法と解するのが相当であると思料する。

四、かかる見地に立つて、本件をみるに、申立人の本件申立は、相続人のあることが不分明であるとして、相続財産の管理および相続債権者等のための清算を行なうため相続財産管理人の選任を求めるものであるから、相続人のあることが不分明であるかどうかについては、被相続人の本国法であるイラン法が、また相続財産の管理および相続債権者等のための清算を如何に行なうかについては、管理財産の所在地たる日本民法が準拠法であるといわなければならない。

五、そして家庭裁判所調査官寺戸由紀子の調査報告書および申立人代理人両名の上申書によれば、在日イラン大使館においても、被相続人死亡後イラン国司法省に連絡をとり、イラン国内において、相続人探索のための公告手続をとつている模様であるが、現在までのところ、イラン国民法に基づく相続人のあることが不分明であることが認められる。

かく、被相続人の本国法たるイラン国民法による相続人のあることが不分明である以上、相続財産の管理および相続債権者等のための清算を如何にするかについては、前述の如く日本民法が準拠法であるから、日本民法第九五二により相続財産管理人を選任し、相続財産の管理および相続債権者等のための清算を行なわせるのが相当である。

よつて本件申立は、理由があるから、これを認容すべく、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例